「残響の指先」-2

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【第二話:深夜の密室】

翌週、篠原と沙耶は地方への出張に出かけた。
取引先との打ち合わせを終え、夜は各自ホテルで休むことになっていた。

「今日はお疲れ様でした」
チェックインを終えたロビーで、沙耶が小さく微笑む。
その笑顔の奥に、言葉にできない期待が宿っていることを、篠原はすぐに悟った。

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「部屋は何号室だ?」
「……703です」
「俺は708だな。……近いな」

言葉少なに別れた二人。
だが、篠原の胸の奥では既に熱がくすぶっていた。
ドアを閉め、ネクタイを外した瞬間——静かなノックが響いた。

「……どうぞ」

扉を開けると、そこに立っていたのはバスローブ姿の沙耶だった。
髪を軽く結い上げ、首筋から漂うシャンプーの香りが夜の空気に溶け込む。

「……我慢できなくて」

その一言で、篠原の理性はあっさりと崩れた。
ドアを閉めると同時に、彼女を強く抱き寄せる。

「お前という女は……」
「ふふ……篠原さんが悪いんです。あの夜からずっと、身体が熱くて……」

唇が重なり、互いの吐息が混じり合う。
舌が絡み合い、濃密な水音が静かな部屋に響いた。

ベッドへと押し倒される沙耶。
彼女のバスローブがゆるみ、下に隠されたランジェリーが露わになる。
真紅のレースが、白い肌に映えて妖艶だった。

「……こんなものまで用意してきたのか」
「だって……篠原さんに見てもらいたくて」

その言葉に、55歳の男の心は大きく揺さぶられた。
年齢差など意味をなさない。
欲望だけが、この密室を支配していた。

彼の手が滑るように彼女の太腿を撫で上げる。
熱を帯びた肌の感触に、彼自身の昂ぶりも隠せなくなっていく。

「もう、濡れてるな……」
「当たり前です……さっきから、ずっと……」

指が秘部を探り、ゆっくりと奥へと沈んでいく。
粘るような音が響き、沙耶の身体が大きく震えた。

「やっ……声、出ちゃう……」
「いい。出せ。俺しか聞いてない」

彼女の声を塞ぐように、再び唇を重ねた。
ベッドの軋み、シーツを握りしめる音、肌と肌のぶつかる熱。
すべてが背徳の旋律を奏でていた。

「篠原さん……もっと、強く……」
「壊れるぞ」
「いい……あなたになら、壊されたい……」

彼の動きは激しさを増し、彼女はそのたびに甘く叫んだ。
ホテルの壁は薄い。隣の部屋に聞こえてしまうかもしれない。
だが、その危うさがふたりをさらに燃え上がらせる。

汗に濡れた肌を重ね合わせ、何度も何度も深く結ばれる。
時間の感覚すら忘れ、ただ互いを求め続けた。

そして——。
彼女が声にならない声を漏らし、全身を弓のように反らせたとき、篠原もまた限界を迎えた。

荒い呼吸が部屋を満たす。
しばらく言葉もなく、ただ重なった身体の温もりだけが、静かに夜を支配していた。

「……やっぱり、もう引き返せませんね」
彼女の囁きに、篠原は苦笑する。
「とっくに戻れなくなってるさ」

その言葉が、ふたりの新たな秘密を確かなものにした。

——こうして、彼らの関係は“深夜の密室”から始まり、より危険で濃厚なものへと育っていくのだった。


第三話予告

第三話:午前0時の会議室
残業を装い、再びふたりきりになるオフィス。
ガラス窓に映るのは、誰にも見せられないふたりの姿。
仕事と欲望が交錯する、その夜の結末とは——。

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